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公共交通シリーズ5
な ぜ 日 本 で L R T は 成 功 し な い の か?
「交通まちづくりに関する研究会」の講演から
 ●LRTには一生懸命、まちづくりを考慮せず

 「市の職員はLRTに一生懸命に取り組んだが、まちづくりについては考えてなかったのではなか」というのは独立行政法人都市再生機構・地域活性化推進役の石塚昌志さん。

 【LRT(Light Rail Traisit)は新しいタイプの路面を利用した電車システム。欧米では1970年代以降華々しい発展を遂げているが、日本においては富山市以外に実現させた例はない。富山市のLRTについては当会サイト「富山を例外にして、日本の公共交通の明日はない」参照。LRTという言葉自体はアメリカで1970年代に創られた造語であり、ヨーロッパ諸国においては「トラム」と呼ぶことが多い。特にヨーロッパにおいて、トラムの新規開業や路線の延伸が続いている。】

 2011年5月28日、横浜みなと博物館訓練センター第3教室にてNOP法人「横浜にLRTをめざす会」主催の「交通まちづくりに関する研究会」が行われた=左写真。講師の石塚さんは「これからの交通まちづくりを考える」をテーマに岡山市や堺市で実際にLRT推進に携わってきた体験から「どうしてLRT導入がうまくいかなかったのか」語ってくれた。
 
 石塚氏は建設省(現・国土交通省)から出向されて岡山市都市整備局長として、 また堺市においても技監としてLRT導入問題についてかかわった。

 公式な見解ではなく、個人の意見としながらも、「(LRT運行の実現にいたらなかったのは)誰が悪いのではない。(LTRを運行するには)映画を作るようにみんなで仕事をしなければいけない。市の担当者は非常に苦労していたが、絶対にヒットさせようとするような共通意識がなかったのではないか」と石塚氏は振り返る。

●まちを変えるLRT ― LRTは街の横のエレベーター ―

 「まちを変えるために、最適なものはLTR。今の時代にぴったり合うものだ。現在の路面電車は時代遅れだ。「よろずや」と「コンビニ」の違いのようなものだ。コンビニにはPOSシステムを入れて売れる商品をどんどん入れていく。一方、よろずやは古い商品をそのままにしてすたれていまいがちだ」。
 「繁盛する百貨店には綺麗なトイレとエレベータが欠かせない。LRTは街中の綺麗な横のエレベーターだ。ヨーロッパのLRTは扉が多く、チケットのチェックなどしない。街中のエレベーターの感覚だ。高層マンションの1階に住んでいる人はエレベーターを使わないが、その費用の負担をしている。でも、しかたがないと思うようなものだ」。
 

●「自分たちで何とかしよう」の意識がヨーロッパでLRTを誕生させた 
   ― 狙いは車の排除 ―


 「(ヨーロッパでは)自分達で何とかしようとする意識が高いのではないか。自分達で新しい街をつくるという意気込みで、LRTを誕生させた。文化や歴史が車社会で破壊され、街が分散してしまった。そのための中心部回帰策だった」
 
 フランスのナントのLRT=右写真(撮影:小田部)では混雑する6車線の2車線をつぶしてLRTを入らせた。「車が混雑し不便になるのでは」との声に、当局担当者は「混雑したことが成功のあかしなんだ」と断言したという。ほっといたら、(不便だから)車がいなくなった。「車は(土地を)広くとるので、もったいない。狭い街には車は非効率だ」と自動車排除の明白な狙いがあった。

 一方、日本の計画書は「何に注意するかというと、(誰かに)突っ込まれないようなものをつくりがちだ。それで、読んで何が書かれているか分かりずらくなる」。

● 日本人の発想が欠かせない

 「彼らは自分達でこういう風に作るんだという意気込みで、自分達で考えて(LRTを)作った」。
 「よく“ヨーロッパのLRTを見に行くべきた”という人がいる。これはずるい。見にいかれない人にどう伝えるかだ」。
 「ただヨーロッパのLRTを導入しても、『うちの物真似ではないか』と言われるだろう。だだそれを受け入れるのではなく、ヨーロッパ人にも『日本人が作った』といわれるような、日本人の発想で新しいものを作っていくべきだ」。

                               2011.7 写真・文責 高橋 (LRT写真:小田部)
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フランス・ナント市のLRT(撮影:小田部)
岡山市のLRT市役所筋導入断面計画図
堺市建築都市局鉄道軌道企画担当・推進担当2007年1月編集・発行「東西鉄軌道の実現に向けて」から引用
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