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     「LRTの導入による都市の再生を考えるフォーラム」報告

   ― 富山を例外にしては、日本の公共交通の明日はない ―
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 2010年9月4日、豊島区立南大塚ホールにて交通まちづくりの広場(人と環境にやさしい交通をめざす協議会)主催で「LRTの導入による都市の再生を考えるフォーラム 〜富山市の取組の足跡を辿り、明日の交通まちづくりを考える〜」が開催され、約170名が参加した。
 (LRT(Light Rail Transit)は路面電車をペースとしたこのようなシステムの総称で、LRTという言葉自体はアメリカで1970年代に創られた造語であり、ヨーロッパ諸国においては従来通り「トラム」と呼ぶことが多い)

 ●富山のLRTは決して特別な例ではない
      ― 成功の秘訣は3人のバカ ―

 「『富山は恵まれた条件があったので、特例だ』と言われるが、決して富山は特別なケースではない」と元富山市助役で、現在国土交通省都市地域整局の望月昭彦課長は断言する。

 「ヨーロッパもアメリカも、寒いところも暑いところも、坂のある町も平坦な町も、ともかく海外を出かけると、一定規模の都市には、新しいLRTが整備されている。しかも、そうした都市は、街中が本当に賑わっている。
 なぜ、日本だけがそうした潮流に乗れないのか。唯一LRTを実現した富山は、どのようにして課題を克服したのか。富山のLRTの効果は、どのようなものだったのか。
 これからの高齢社会、交通まちづくりは避けて通れない。ある程度の規模の都市であれば、LRTはその切り札になる。できない理由を並べても、街は良くならない。ともかく、富山を徹底解剖すれば、何かヒントがあるだろう。どのようにすれば、日本でもLRTによる交通まちづくりはできるのか。英知と熱意を結集したい」とコーディネータの宇都宮浄人氏はフォーラムのパンフレットに記している。

 富山のLRTの成功には、森雅志市長の高い指導力があったが、このフォーラムでは実際にその裏方の人達の話が伝えられた。

 富山の成功の理由を聞かれたとき、市長は次のような話をしたという。

 「庁内でバカを三人見つけることです。専門家より専門になれる人間が必要。計画、実行、完成、運行までを一環として続けるには、三人が必要です。一人ではつぶれてしまう。二人ではケンカになる。三人であれば、お互いに認め合うことが多い。
 富山市の場合、早い段階でバカ三人を確保できた」。
 「この話で誰がどうかと言うことではない。“仕事だからしゃねえ”では市民に熱意が伝わらない」と元助役は訴えた。

 こうした人材が確保できた。百回以上行われたタウンミーティグでの合意形成があった。将来のまちづくり実現のためのプロジェクトとしてLRDを位置づけた。JRの赤字廃止予定路線をどう再生するかという問題があった。新幹線整備までという時間的制約があった。などを成功の理由として上げている。

 ● 期待感が高まる仕掛けを創った

 「だんだん(LRT完成の)期待感が高まるような仕掛けをつくった」と富山LRDの停留場のデザインを手掛けたCORO環境デザイン研究所の宮沢功氏はいう。

 そのため停留所に独自の特徴にする様々な工夫をこらしたという。地元のデザイナーに参加してもらい、地域の資源をアピールするようなコーナを作った。広告スペースを作り、それを企業に買ってもらい制作費をいただいた。そうすることで地域の注目を集め、それによって「市民が理解して応援してもらうコミュニケーションツール」とした。

 ● “かっこいい”からではなく、交通ネットワークとして

 一方、バネリストから「気になることがある」とこんな苦言も提言された。

 「ワンコインバス、レンタサイクル、カーシェアリング、自転車とか、交通ネットワークを第一に考える。その中でLRTを入れる。LRTがかっこいいから、それだけが目的であってはならない」。

 ● 富山から何を学ぶか ― 富山特殊論を否定 ―

  日本経済新聞社で富山支局で努めた経験があり、「交通まちづくりの時代」などの著作がある、日本経済新聞社産業地域研究所の市川嘉一氏は、「富山市のLRTを例外にしては、日本の公共交通の明日はない」とさえ断言する。
 富山市のように土地利用とセットした公共交通を軸とした整備が必要性だと強調していた。
 市民がまちづりを目指してそうした仕組みを作っていく。それには公募ででなく、無作為抽選の市民を集めること。公募ではいつも同じ方が集まってしまうからだ。抽選で決まった市民にレクチャーをして、いろいろな提言をしてもらうことだ。合意課程で大事だ。
 ドイツなどで行われている一歩進んだ市民の取組方を紹介した。

主催者はパンフレットの中でこう訴えている。

 「20世紀のモータリゼーションとともに市街地の拡大が進んだ地方都市の多くにおいて、高齢化が進むとともに生産者人口が減少、拡散した市街地のインフラや福祉サービス等を維持するための自治体の負担が大きな課題となっています。

 また、東京をはじめとする大都市においても、道路空間が自動車であふれる状況は依然として続いており、快適な生活環境を創造するとともに、経済と環境が両立した魅力ある国際都市への変化が求められています。日本の都市の変化の必要性は、もはや待ったなしの状況です。

 LRT等の交通システムを導入は、高齢者や障害者も利用しやすく街中の賑わいを高める人と環境にやさしい移動手段として、このようなニーズを実現させる方策として非常に有望と考えられます。しかし、欧米の各都市でLRTの導入が進む一方、日本では多数の都市で導入の動きはあるものの、実際に具現化したのは富山市のみとなっているのが現状です。

 その富山市では、高齢者の外出が増え、LRT沿線の住宅着工数が増加するなど、市民の生活や都市構造の変化が早くも観測されてきています。また、昨年末には中心市街地に環状線(セントラム)が開通、さらに既存鉄道の上滝線のLRT化の検討も開始されています。市民の合意プロセス、交通事業者の確保、事業の経済性等の課題が指摘されるなか、富山市の取り組みの舞台裏を詳細に探り、その成功要因を紐解くことは、今後、LRTまちづくりを各地で実現させるために欠かせないのではないでしょうか。」
                                       2010.10. 文責:高橋 (写真:会場高橋、富山TLD小田部) 
Commented by 小巴迷 at 2010-11-02 10:12 x 当会ブログのコメントより
私はLRTよりBRTを実現させるべきだと思います。
BRTなら車両は通常のバスでOKですし、既存事業者がそのまま参入すれば良いわけですから、コストは大幅に抑えることができます。
名古屋の基幹バスをベースに、神奈中のツインライナーを走らせればLRTに比肩できる公共交通網が構築できると思います。
☆もっと富山市の取組を知ろう! 参考資料
↑ 富山市が取り組むコンパクトなまちづくり
― 持続可能なコンパクトシテイを支える鉄道ネットワーク ―からの図(内容はPDF参照
公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり [富山市]・・・富山市都市整備部交通政策課
●「富山市の“交通まちづくり” なぜ、今路面電車なのか」・・・・2010.6.25放映 富山市長自信が富山市の交通とまづくりを解説
  公共交通を中心としてコンパクトなまちづくりをした結果、どう経済効果があったかという点が興味深い
12月5日に開催された「第4回 人と環境にやさしい交通をめざす全国大会 in 東京大学・・・「持続可能な地域交通を考える会」がまとめている。各種資料のリンク先をまとめている。
☆現実を知らない日本人・・・足立直樹著 「2025年あなたの欲望が地球を滅ぼす」より
 今回のフォーラムを開催した「交通まちづくりの広場(人と環境にやさしい交通をめざす協議会)の事務局を担当している小田部明人さん(当会会員)は「行政にこうした話を聞いてもらいたいのです。川崎市の交通対策室にご案内を出したのですが、所用があってということで参加いただけなかった」という。
 「交通問題は環境とは関係ないのではないか」とかよく言われる話である。
 このように話す人々や行政は諸外国や富山市などの交通施策を知っているのだろうか? 日本人や行政が本気になって環境や交通問題に取組まないには、情報化時代にあっても現実を知らないことに一因があるのではないだろうか?
 足立直樹氏は自著「2025年あなたの欲望が地球を滅ぼす」に次のように記している。環境問題を交通問題に置き換えることもできよう。

イギリスの経済誌で日本人のことをこんなふうに表現する記事があったそうです。

untaught people

現実を知らされていない人々という意味です。これを知った時、私たち日本人が海外からそのように見られていることが少なからずショックを受けました。しかし、これは事実だと認めざると得ません。実際、日本人は大切なことが何も知らされていないからです。

・・・ヨーロッパにおいては、地球環境問題はきわめて深刻な問題として捉えられ、その改善に対して非常に積極的です。今でこそ、環境先進国と呼ばれるヨーロッパ諸国ですが、もともとは環境破壊先進国でもありました。世界の中でもっとも早く産業革命が起こり、近代産業の発展を優先させ、森林伐採を推し進め、有害化学物質を無自覚に拡大させていました。大気汚染、水質汚染が広がり、気がつけば自然環境にとりかえしのつかないダメージを与えていたのです。それを目のあたりにして、彼らは愕然としたはずです。彼らを環境問題に駆り立てている動機の一つはこのような過去に対する反省なのだとも言われています。・・・・

 (アメリカは広大な国土があり、余裕がある。最先端の技術で解決できると自信さえある)そのような考え方が主流のアメリカのメディアを通したニュースからは、地球環境の深刻な現実は十分伝えられませんし、問題の解決に対するアプローチも異なるでしょう。それを「世界標準の考え方」だと受け取ってしまった、受け取らざるを得なかったことが、日本人を“untaught people”にしてしまった原因にしてしまった原因ではないでしょうか。

 私たち日本人は、日々漫然と過ごしているだけでは世界の現実を知ることが難しい状況にあることを自覚する必要があります。ただし、情報は確かに存在しています。知ろうとする意識さえもてば、今やインターネットなどを利用すれば、誰でもどこでも簡単に入手することができます。その気になれば、“untaught people”から脱することは決して難しいこととではないのです」(抜粋)
(公共交通に関しては、アメリカでもワシントン州ポートランドなど先進的な都市が多くある)
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