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収容台数日本一、葛西駅ハイテク駐輪場の秘密を探る
― データに基づく、人、もの、お金のシステム創り ―















サイクルツリー内部と葛西駅地下駐輪場のイメージ図
(左写真サイクルツリー内部:英国ガーディアン紙(電子版)、イラストはセントラルコンサルタント株式会社のホームページより)

 「設備だけ作るだけでなく、こつこつと努力していかなければ、うまくいきません。モラルやルールをどう目覚めさせるかです」と言うのは、運営委託を受けているシティ警備株式会社総合自転車対策室(西葛西駅・瑞江駅・葛西駅)統括責任者の中野親則さんだ。
 ここ東京都江戸川区葛西駅の東西2ヶ所の地下駐輪場には自転車が9,400台収納できる。その数日本一。
 江戸川区役所は、国土交通省、東京都よりの補助金を確保し、2005年10月に総合評価方式で公募を開始し、設計施工者を決め、機械式地下立体駐輪場を完成させた。工費は、約70億4000万円、国の補助金で25%、都の補助金で15%、残りの60%が江戸川区の負担だった。面積は東口2,700u、西口2,900>u、合計5,600u。
 2008年4月にオープンしたハイテク駐輪場の成功の秘密を探ってみた。

■ 統計的に必要収納台数を用意

 地下鉄東西線葛西駅を利用する乗客は1日約94,000人。統計的にその10%が自転車を利用していると推測される。その必要台数は9,400台。これが環7通りを挟んで2ヶ所の収納台数となった。稼働率は現在92%となっている。必要な定期利用者には現在100%提供しているという。
 オープン時間は始発と最終電車の前後30分の前後の午前4時半から翌日午前1時までだ。

 狙いは放置自転車ゼロ

 かつて葛西駅周辺には、約5,300台収容可能な置場があったが、駅から離れた箇所もあり、2,800台を超える放置自転車があった。歩道の半分を駐輪場するなど、毎日50名体制で自転車整理に当たっていたという。

 写真は駅近くの環七通りの歩道。かつてはこの半分が駐輪場であった。
 それが今や放置自転車が約100台に激減した。
 それは単に駐輪所管理だけではなく、常に循環して放置自転車をしないよう案内指導と撤去をしてきたからだ。「警備服できちんと案内すると効果的でした」と前述の中野さん。

 歩道に1台放置自転車があるのを見かけ、中野さんは「以前はこのような放置自転車は道路に対して横に置かれていた。今は縦に置かれている。これも配慮するようになったからです」と説明する。この自転車には放置禁止の札の後が7本しっかりついていた。(写真1)

■ 80%を落とす面接、地元の人を雇用する戦略

 「駐輪場管理は誰でもできると思われてしまうのです。しかし、採用に当たって80%は落とします。ほとんどが地元の人から選び、若い人も採用しています」と中野さん。
 2つの駐輪場はそれぞれ3名体制。各自に無線を携帯させている。
 2段式ラックから降ろすのを手伝う姿も見られた。
 従業者研修を年3回行っているそうだ。
 20代と推定する若者も見られた。
 
■ IT技術を活用した迅速な収納システム

 自転車格納システム「サイクルツリー」は、直径6.9m、深さ14.45mの円筒型駐輪設備で、放射状に自転車をエレベーターで収容するもの。(You Tubeを参照)すべて定期利用者用だ。登録するにはまずは車検が必要となる。簡単な器具によって、高さ、幅、長さを図り、合格すれば、ICタッグを付け、カードが発行される。一度登録すれば、後は販売機に支払いをすると継続更新できる仕組みだ。
 自転車を所定の溝にすべり込ませ、ボタンを押せば完了。その時間は7〜8秒。後は機械がICタッグを読んで、全自動で収納する。ほとんどの人が収納を確認しないで、ボタンを押して立ち去っているようだ。
 「いつも同じ場所に入れるようにしていますが、ほとんど待つことがありません」と利用者の一人。
 取り出すには、リーダにカードを通すと、約20秒で自転車が出てくる。出し入れはラック式の収納自転車より楽なようだ。
 機械式収納機は、東口に21基、西口に15基、合計36基、6,480台収納ができる。ピンク、緑、青、黄色の4色に分かれる。違う場所で出そうとすると、機械の番号が表示されて案内する。
 規格外や一時利用の自転車は平置きや二段式ラックに収納するようになっている。東口1,120台、西口1,800台。当日利用は一律100円で、自動販売機で代金を支払う。あるパチンコ店は依頼を受け、来店者にこの100円を支払っている。

 「使用利用金のお支払が無い状態で駐輪場内に止められている自転車については、1ヶ月の猶予期間を経て、区条例に基づき放置自転車として撤去します」と、更に、無断使用、超過利用についてはワイヤーロックをする。撤去手数料は2,500円。
 停電や機械故障時対策として、代用自転車も用意している。著者が視察した日は土曜日だったが、メンテナンス作業をしていた。ハード・ソフト両面でしっかり管理されているようだ。

■ 料金システムと頑張れば得する契約システム

 一般定期利用代金は、1ヶ月1,800円、3ヶ月4,900円。学生割引もあり、1ヶ月1,000円、3ヶ月2,700円。
 「生活保護を受けている方及び中国残留邦人の方は、使用料が免除」となっている。(要保護受給証明書及び支援給付証明書)
 無料の駐輪はない。
 ここは自転車専用としていることも特徴だ。「バイクは東第2号駐輪場」をご利用ください」だ。
 1日利用のレンタサイクルも500台用意し、葛西駅、西葛西駅、葛西臨海公園駅の各駐輪場で返却できる仕組みとなっている。
 
 こうした様々な仕組みを通じて売上に対して得た利益(収入から補助金を引いた金額)は、区と運営会社が折半する契約となっており、運営会社の日頃の努力が報われるシステムとなっている。

 この日本一の「機械式地下立体駐輪場」は安全性、利便性、景観などに配慮した優れた施設だ。これまで土木学会賞・技術賞、全建賞(都市部門)、全国街路事業推進協議会・会長賞と数々の賞を受けてきた。(詳細は江戸川区ホームページ「葛西駅地下駐輪場に高い評価」参照) それは単なる施設だけではなく、データに基づく、もの、人、お金のシステム創りをしてきた結果である。
                                         2010.10 文責・写真: 高橋
☆ 読者感想 
 私は以前にも江戸川区の駐輪施設の現場視察、および行政より自転車政策の説明を受ける機会があり、その際には葛西、西葛西、平井(総武線)など中・北部の数駅を拝見してきました。
 以前に視察に伺った世田谷区もそうでしたが、川崎市と違うのは、自転車は活用すべきもので、抑え込む対象ではない、という理念が共有されつつあるように見受けられます。
 一方、川崎市ではまだ、市全体の政策としては、自転車は厄介者であり「対策」される対象である、という意識が根強いと感じています。これは、新総合計画で自転車関連の取り組みが「放置自転車対策」しか無かったことからも窺えます。
 10月のタウンミーティングでの自転車活用に関する質問に対して市長は、自転車活用の視点は大事だが、今は目先の「放置自転車対策」に追われているのが実情だ、という返答をしていました。自転車「活用」は「対策」より優先順位が低いと聞こえてくるのですが、こうした発想を転換する必要があるように感じます。
 川崎市の対策が付け焼き刃で場当たり的なものに終始しているのに対し、江戸川区がこれだけ大規模な駐輪施設を建設できた背景には、東京都23区の比較的恵まれた財政の仕組みもあるように聞いてはいますが、そればかりではなく、市民生活に欠かせず、環境面でも普及が望ましい自転車を活用するために必要な施設は造るんだ、これでまちが良くなるんだ、という意識を皆さんが共有されているように感じられました。
 もっとも、我々市民の側も、ただ文句を言うだけではだめで、発想の転換を促すような前向きな呼びかけや取り組みが必要なのでしょう。その意味で、今回の記事は素晴らしく、こうした事例をもっと皆さんに知っていただけたら良いと思います。
                                          井坂 洋士
☆ 発展途上の自転車大国日本に、誇れる駐輪場システム・・・ブログ
 今回この記事を書くきっかけや背景を紹介している。ご意見やご感想をブログにて募集中。
 
写真1:激減した放置自転車には、理由がある。かごについた放置自転車対策の札の数は7枚。
車検装置、幅や高さは木製器具で測る このように自転車を置き、ボタンを押せば完了。
 規格外の自転車には平置きも用意 出口が多い
☆参考資料として
*23秒でどうぞ「ハイテク駐輪場」・・・・You Tube 地下駐輪場の機械の動きが映し出されている。
*Has Japan designed the world's best bike shed?(日本は世界最大の駐輪場を作ったか?)・・・・2009年11月5日付のイギリス高級紙ガーディアン(電子版)に動画付きの記事。コメントが75件寄せられている。
*JFEエンジニアリングHP・・・・この立体駐輪場を作成、その案内がある。
*日本最大の駐輪場 葛西駅地下駐輪場が完成【3月15日】・・・江戸川区のホームページ
*葛西駅地下駐輪場整備事業平成19年度江戸川区「行政評価」事務事業分析シート
☆ 川崎市登戸にもある機械式駐輪場 
 2009年2月1日、川崎市多摩区登戸駅多摩川口側のすぐ近くにこのJEFエンジニアリング製の機械式駐輪場がオープンしている=写真。こちらは南武線沿い歩道と多摩沿線道路の狭い土地の地上に建てられた。
 様式は葛西駅地下駐輪場と変わりはない。すべてが定期用だ。自転車ツリーは三基、収容台数は594台が収納可能だ。車検に通らない自転車用として、別に平置き駐輪場が45台確保されている。
 料金は1ヶ月2,000円、3ヶ月5,600円とやや高め。
 利用時間は午前4時〜翌午前1時半(始発前〜終電後)
 川崎市の職員3名とアルバイス3名体制で、運営されている。
 機械故障時用として代車が20台用意されている。
 6割が午前7時から10時に集中する。混雑時には収納に時間がかかるので、自転車を預かって、係員が後で収納するそうだ。

 駅前のスペースをうまく利用している。
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